相続における使途不明金(遺産の使い込み)の返還請求について弁護士が解説

「遺産相続の際に使途不明金がある場合、返還請求できるのでしょうか?」
といったご相談を受けるケースがよくあります。

相続が発生すると、被相続人(亡くなった方)と同居していた相続人が預金などを勝手に使っていた事実が発覚する事例が少なくありません。そんなときには使った相続人と他の相続人が対立してしまい、遺産分割を進めるのも難しくなってしまいがちです。
この記事では遺産相続の際に使途不明金がある場合、返還請求する方法を弁護士が解説します。遺産の使い込み問題でお困りの相続人さまはぜひ参考にしてください。

1.相続時によくある使途不明金とは

遺産相続時には、使途不明金が見つかるケースがよくあります。
使途不明金とは、被相続人の預金や現金のうち何に使われたかわからないお金です。
預金口座からまとまった金額が出金されていたり、どこかわからない場所へ送金されたり、高額なクレジットカードの引き落としがあったりするケースが典型です。

使途不明金は、特に被相続人と同居していた相続人がいる場合に問題になりやすい傾向があります。同居していない相続人にしてみたら「同居していた相続人が被相続人の財産を勝手に使ったのではないか?」と疑いますが、同居していた相続人は「使っていない」などと主張して対立してしまうからです。
結果として大きな相続トラブルが発生し、遺産分割もなかなか進められない事態に陥るケースが多々あります。

2.4種類の使途不明金

ひとことで「使途不明金」といっても、状況によって以下の4種類に分けられます。それぞれのパターンについての法的な考え方をふまえてみていきましょう。

2-1.被相続人自身が出金して使った

1つ目は被相続人本人が自分で出金して使った場合です。この場合、本人が自分のために使ったのであり、法的に何の問題もありません。他の相続人が取り戻すこともできません。

2-2.相続人が被相続人のために出金した

2つ目は、同居していた相続人や家族が被相続人から頼まれて出金した場合です。
たとえば以下のような場合があります。

  • 「預金を○○円下ろして△△に使ってほしい」と頼んだ
  • 被相続人の身体が不自由なので、相続人が被相続人からキャッシュカードを預って日常的に預金を管理していた

上記のようなケースでは、被相続人が相続人に出金や支払いなどについての権限を与えているので、法律的な問題は生じません。
ただし実際には相続人が「出金の指示を受けた事実」を証明できなければ、トラブルになってしまう事案も多いパターンです。

裁判になった場合にも、相続人が「出金を依頼された事実」を証明できなければ使途不明金の支払い命令が出る可能性があります。

2-3.相続人が被相続人の承諾を得て自分のために出金した

3つめに、相続人が被相続人の承諾を得て相続人やその家族のために出金するパターンがあります。
たとえば以下のような場合です。

  • 被相続人が相続人に生前贈与するためにまとまったお金を引き出すよう指示した
  • 被相続人が相続人に車などの資産を買ってあげたり旅行などのお金を出してあげたりするために出金を指示した
  • 被相続人名義のクレジットカードを使って相続人に何かを買ってあげた

上記のような場合でも、被相続人自身の意思で相続人に何かを買ってあげたり贈与したりする分には、法律的な問題は生じません。生前贈与は法律的に有効なので、他の相続人が使途不明金を取り戻すことはできないと考えましょう。
ただし贈与を受けた相続人は「出金して良いといわれていた事実」や「贈与された事実」を証明しなければなりません。
これらの事実を証明できなければ、無断出金となって返還しなければならない可能性があります。

特別受益になる可能性

被相続人が生計の資本などのために相続人へまとまった金額を贈与すると、贈与を受けた相続人の「特別受益」になります。
特別受益が成立すると「特別受益の持戻計算」によってその相続人の遺産取得分が減らされます。その結果、遺産分割において他の相続人の遺産取得割合が法定相続分より増える可能性があります。

遺留分侵害額請求について

特定の相続人に高額な生前贈与が行われて他の相続人の遺留分を侵害されると、他の相続人は遺留分侵害額請求ができます。
遺留分侵害額請求とは、相続人が遺留分に相当するお金を取り戻す手続きです。
子どもや配偶者などの相続人には、最低限の遺産取得割合である遺留分が認められます。
生前贈与によって遺留分すら受け取れなくなったら、遺留分を侵害された相続人は侵害者へと遺留分侵害額請求を行い、お金を取り戻せるのです。

使途不明金の正体が「被相続人から相続人への贈与」だった場合には、特別受益の持戻計算と合わせて遺留分侵害額請求も検討しましょう。

2-4.相続人が被相続人に無断で自分や家族のために出金した場合

4つ目のパターンは、相続人が自分のために被相続人に無断で預金を引き出した場合です。この場合、相続人は被相続人の許可を得ていないので、本来は出金する権限がありません。
「お金を盗んだ」のと同じになります。よって他の相続人は預貯金を引き出した相続人に対し、使途不明金の返還請求ができます。

なおこの場合、一人ひとりの相続人が請求できる金額は「法定相続分」までとなります。それぞれの相続人が受け取れるのは法定相続分に応じたお金であり、それを超えてはそもそも受け取る権利がないためです。

3.使途不明金を取り戻す方法

使途不明金を取り戻す方法には2種類があります。以下で相続発生後に使途不明金が発生した場合と相続発生前に預金が出金された場合に分けて対処方法をみていきましょう。

3-1.相続発生後の使途不明金の場合

相続発生後に同居の相続人などによって勝手に出金された場合には、遺産分割協議や調停の中で話し合うことができます。つまり協議や調停で遺産分割するとき、使途不明金の返還方法についても一緒に話し合って解決できるのです。
使い込んだ相続人が同意しなくても、遺産分割の中で一緒に話し合って決めることができます。調停で解決できない場合には審判で使途不明金も含めて判断してもらえます。

3-2.相続発生前の使途不明金がある場合

相続発生前に使途不明金が発生している場合、遺産分割の中では取り戻しができません。
相続発生前の使途不明金は、遺産分割とは別途「不当利得返還請求」や「不法行為にもとづく損害賠償請求」によって取り戻さねばならないのです。

不当利得返還請求

相手が法律上の理由なしに利得を得ていてこちらが損失を被っている場合、相手に請求して不当な利得分を返してもらうための権利です。

不法行為にもとづく損害賠償請求

相手が故意過失にもとづいて違法行為をしてこちらに損害が発生した場合、相手に損害賠償を求める権利です。

どちらの構成でも使途不明金の取り戻しは可能です。

3-3.不当利息返還請求権と不法行為にもとづく損害賠償請求権との違い

不当利得返還請求権と不法行為にもとづく損害賠償請求権では、時効の点で大きく異なります。

不当利得返還請求権の時効

不当利得返還請求権の場合、以下のいずれか早い方の時期に時効が成立します。

  • 返還請求できると知ってから5年
  • 返還請求できる状態になってから10年

不法行為にもとづく損害賠償請求権の時効

不法行為にもとづく損害賠償請求権の場合、以下のいずれか早い方の時期に時効が成立します。

  • 不法行為の内容と不法行為車を知ってから3年
  • 不法行為時から20年

不当利得返還請求か不法行為にもとづく損害賠償請求か迷ったら、時効が成立していない方の権利を主張すると良いでしょう。なお裁判などではどちらも並行して主張することが可能です。

4.使途不明金を取り戻す手順

使途不明金を取り戻すには、以下の手順で進めましょう。

STEP1 証拠を集める

まずは証拠が必要です。特に使途不明金を計算するための取引履歴を入手しなければなりません。金融機関へ請求して、該当期間における取引履歴を出してもらいましょう。
取引履歴には、一定期間内の入金や出金、引き落としや振込送金などの取引がすべて記載されています。
相続人が金融機関へ請求すると出してもらえるので、戸籍謄本や身分証明書などの必要資料を用意して金融期間へ申し出をしましょう。

STEP2 使途不明金を計算する

取引履歴を入手したら、使途不明金の金額を計算しなければなりません。
いついくらの出金があって合計いくらの使途不明金があるのか、まとめましょう。
後で相手に請求するため、表にまとめておくようおすすめします。

STEP3 請求する

使途不明金の計算ができたら、相手に請求しましょう。
相手と普通に話ができる状態なら口頭で請求しても構いませんが、対立していて無視される可能性が高いなら内容証明郵便を使うよう推奨します。
ただし内容証明郵便では使途不明金の計算表を送れないので、別送の普通郵便などで送る必要があります。

STEP4 話し合って合意する

請求をしたら、相手と話し合って使途不明金の返金額や返金方法を決定しましょう。
合意ができたら、使途不明金返還に関する合意書を作成するようおすすめします。
口約束では守られない可能性があり、守られなくても請求するのが難しくなってしまうからです。必ず書面を作成して、証拠を残しましょう。分割払いになる場合などには、相手が不払いを起こした場合にそなえて公正証書を作成しておくようおすすめします。

STEP5 訴訟を提起する

相手と話し合っても合意できない場合には、訴訟を提起して使途不明金の取り戻しを目指しましょう(相続発生前の使途不明金がある場合)。
訴訟で使途不明金の存在と相手が無権利で出金したことを証明できれば、使途不明金の返還命令を出してもらえます。
なお使途不明金が相続発生後のものだけであれば、遺産分割調停や審判の中で一緒に決定できるので、家庭裁判所で申し立てると良いでしょう。

5.使途不明金を請求するために必要な証拠

使途不明金を請求するためには、以下のような証拠が必要です。事前に集めておきましょう。

  • 取引履歴(金融機関へ請求)
  • 介護記録(介護施設、介護事業所へ請求)
  • 医療記録(病院へ請求)
  • 要介護認定を受けた際の記録(自治体へ開示請求、控えがあれば控えでも対応可能)

介護や医療の記録が必要になるのは、被相続人自身が出金したり出金権限を与えたりしていないことを証明するためです。
医療機関や介護施設、行政などへ請求しましょう。

6.使途不明金の取り戻しを弁護士に相談するメリット

使途不明金のトラブルが起こったとき、自分たちだけで解決しようとしても争いが紛糾してしまい、解決不可能になってしまうケースが多々あります。
使途不明金の取り戻しは、早いうちに弁護士へ依頼しましょう。
弁護士に依頼すると以下のようなメリットがあります。

  • 証拠の集め方がわかる
  • 使途不明金を正確に計算してもらえる
  • 相手と直接話さなくて良い
  • 問題が交通整理されてスピーディに解決しやすくなる
  • 精神的な負担が軽減される
  • 話し合いが決裂して調停や審判、訴訟になっても安心

DUONでは相続トラブルの解決に積極的に取り組んでいます。遺産の使い込み問題でお困りの場合には、お気軽にご相談ください。

ページの先頭へ
menu

新規相談予約センター

電話で毎日24時まで予約できます。
0120-074-019
相談予約受付時間:
平日・土日祝日6時~24時
事務所一覧